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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)1432号 判決 1950年6月21日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人保坂治喜の上告趣意は末尾に添附した別紙書面記載のとおりである。

上告趣意第一点について。

記録に徴するに、被告人は金銭に窮し壓世的となり、本犯行前に自殺しようと決意するに至った事実を認め得るが、第一審公判において裁判長の問に対し、被告人は近親者中に頭の悪い者はない旨を述べているし、第一、二審共公判における被告人の供述は終始筋道が通って居り、精神に異状があると認むべき点はないばかりでなく、原審公判において被告人がわから本件犯行当時被告人は心神喪失又は心神耗弱の状態であった旨を主張した形跡もない。およそ裁判所が、被告人の公判廷における供述並びに供述の態度、訴訟記録、その他弁論の全趣旨により、被告人に精神の異状はないと認めた以上、ことさらに精神鑑定を命ずる必要はないものであるから、原審においては叙上の資料により被告人に精神の異状はないと認めて精神鑑定を命じなかったことを推認し得るものである。そして、精神に異状がないと認めて、精神鑑定を命じないこと及び刑法三九条を適用しないことは当然であり何等所論憲法の規定に違反するところはない。論旨は理由がない。

第二点について。

原判決挙示の証拠により判示事実を認定するに足り、事実認定について実驗則に反する点はない。そして被告人の意思によって犯行を中止したものでないことは、挙示の証拠に照らし明白であるから被告人の所為を中止未遂と認めなかったことは正当である。論旨は独自の見解にすぎないから、採用できない。

よって旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。

以上は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上 登 裁判官 栗山 茂 裁判官 真野 毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介 裁判官 穂積重遠)

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